社会福祉職10年目
中堅ケースワーカーの
Uさん


福祉とは関係のない分野の大学を卒業後、社会福祉士資格取得と福祉系公務員就職を目指して福祉系大学に編入。在学中に公務員試験と社会福祉士の国家試験に合格し、首都圏・政令指定都市の社会福祉職として入職、今年で10年目
生活保護担当5年、児童相談所担当3年を経て、現在は高齢者相談担当2年目。

■困っている人を助ける仕事がしたいと福祉系大学へ

高校卒業後、社会学系の大学に入学したのですが、ちょうどそのころ貧困が社会問題化しており、まあまあ裕福な家庭に育った私は、これは本当に日本の出来事なのかと衝撃を受けました。
公務員になりたいという希望もあったのですが、そのなかでも社会福祉職に従事して困っている人を助けたいという気持ちが募り、編入学試験を受けて福祉系大学に編入しました。

■社会福祉職に就くために猛勉強

福祉系大学の3年に編入したので、社福の必須科目の単位を2年間でとるために課題や実習に追われました。
公務員試験は4年生の5月頃にあるので、早い時期から予備校へも通って準備しました。
さらに社福の国試は卒論提出後すぐだったので、タイトななかで必死に勉強しました。

国試前は毎朝ファミレスに行って朝勉強し、それから学校に行くというような生活を数週間したような気がします。勉強はひたすら過去問を解いて、間違えたところはなぜ間違えたのかを解答を見ながら覚えて、どう文章を直すと正しくなるのかを問題集に書き込みました。
猛勉強の甲斐もあり、公務員試験も国試も1回で合格し、念願の社会福祉職に就くことができました。

■話しやすそうに見えること、オンオフをはっきりさせることが大事

入職するとすぐに生活保護の担当になりました。新人さんがよく配属される部署です。なぜかというと、生活保護は担当者がみんな同じような仕事内容なので、互いにフォローしやすい部署だからだと思います。

家庭訪問での質問には、ある程度「型」があります。「最近体調はどうですか?」とか「日常生活はうまく回っていますか?」とか「親族の方と連絡をとってますか?」といった「型」を覚えてしまうのです。また、すでに保護を受けている方は訪問記録があるので、それを参考にすることで聞くべきことが把握できます。
それから、対象者の方の話を聞き出すために、話しやすい雰囲気を出すことは大事です。本当は、気難しい人間なんですけどね(笑)

オンオフをはっきりさせることも心がけています。定時ですぐ帰るとか。これは仕事を続けるためには必要なことです。私も若いころは、休みの日でもケースのことを考えて悶々としてしまうことがありました。でもそれは明らかに精神衛生上よくないので、先輩から「職場のドアを出たらプライベートだと思いなさい」と教えられて、割り切れるようになりました。

■多くのケースをこなすと、観察力が磨かれる

生活保護は、職員1人がもつ担当数が、厚生労働省の基準で80世帯と決まっています。世帯なので、人数でいうともっと多いですね。

5年間担当したので、いろいろなケースがありましたが、印象に残っているのは精神科の病院にうまくつなげたケースでしょうか。
前任者からの引継ぎではなく新たなケースの方で、申請書を預かると、訪問に行っていろいろな書類を提出していただきながら生活歴を聞きます。どこで生まれて何をしてきたか、学校はどこを出て、どんな仕事をしてきたかとか。何のためにお聞きするかというと、自立支援のためのヒントを得るためです。

その方は、40歳代の男性で一人暮らし。ご両親はご健在でしたが、関係が悪く、仕事を辞めてしまって困っているということでした。お話を伺うと「私、組織に追われているんですよ」とおっしゃるんです。
精神のご病気があるなと思ったので「病院へ行っていますか」とお聞きすると「病院にも組織の人がいるから行かれない」と。
そこで「眠れていますか」とお聞きすると「全然眠れていない」とおっしゃるので、「それはつらいですよね。生活保護の基準で、健康な人は働いてもらわないといけないんですが、あなたのお話を伺っていると働くのはちょっと難しそうなので、精神科の病院へ行って、お薬をもらって、まずはゆっくり休みましょう」と話してみたんです。
「行かなきゃいけないんですか」と受診を快く思わない様子だったので「保護のルールで、病院へ通っていないなら働いてくださいとお願いしないといけないんですよね。病院へは私も一緒に行きます。私は役所の人間だから、組織の人のことは気にしなくて大丈夫です」とお伝えして一緒に病院へ行きました。
お薬をいただくことができ、症状をコントロールできるようになりました。

こうして病院につなげられたことは、自分でもよくやったと思えたし、今でもよく覚えているケースです。
毎年担当が変わるので、80ケース×5年で約400ケース担当していることになり、その方に合う支援方法を見つける観察力は磨かれている気がします。

■虐待には感情のコントロールではなく、家族の仕組みづくりを支援

生活保護の次は児童相談所の担当になりました。
ケースワークでは、一度に50ケースくらい担当しました。生活保護と比べ、ケースの数は少なくても、1件にかかる手間も時間も大きく、とても大変です。
特に虐待相談の対応はとても難しい
親は殴りたくて殴っているのではなく、子どもが何度言っても言うことを聞かなくて、殴っておとなしくさせるというケースがあるとします。親にお話を伺うと「子どもの性格が変わればおさまるんだけど」とおっしゃいます。でも、実際のところは、子どもに対する親の接し方が変わらなければ状況は改善しません

こういうときはいろいろな技法がありますが、私の部署では、家族構成員を変えて、新しい風を家庭に入れることを提案していました。
たとえば、宿題をしない子どもを殴ってしまうケースでは、「宿題をしなさい」と注意するのは、同居していないおばあちゃんが家に来ているときだけにするという約束をします。構成員を変えて、暮らしのやり方を変えることで、状況が改善していきます。

このように、親の感情をコントロールする方法をアドバイスするのではなく、家族の仕組みづくりをどうしたらできるかを支援していきます。

■未来の支援者にバトンを渡すつもりで、モチベーションアップ

虐待相談も大変でしたが、非行相談も大変でした。
高校生の女の子で、家出をして警察に保護され、親との関係がよくないので、家に帰れないから児童相談所で預かってほしいというケース。その子は1年に3,4回家出を繰り返し、そのたびに児童相談所に連絡がきます。

毎回、親を呼んでお話を伺うのですが、親が小さい頃からその子を抑圧していたことで、それが爆発して起こる事例のようで、根が深く、なかなか解決に至りませんでした。
家出を繰り返すうちに女の子が妊娠してしまい、それをきっかけに母親との関係は改善したのですが、今度はそれからの生活のことや、生まれてくる子どもが不適切な養育に晒されるかもしれないということも考慮に入れて、引き続き見守っていかなければいけません。

このように問題や支援は続くことになるかもしれませんが、私はそのバトンを未来の支援者に渡すつもりで自分のモチベーションを上げています。
自分のときはできないかもしれないけれど、支援したことで、「相談してよかったな」とか「頼れる人がいるかもしれない」とちょっとでも思ってもらえれば、それが次の支援につながっていくと思うのです。
困ったときに外部に相談するというのは意外に難しいことです。相談してもどうせわかってもらえないだろうと考えたり、人を信用していなかったり。
でも一度でも誰かに助けてもらったという経験があれば、また困ったときに相談してみようという気持ちになるのではないかと。そしてそれがいい方向へつながっていくことを願っています。

■高齢者相談は、地域包括支援センターと組んで支援

いま従事しているのが高齢者相談です。
高齢者相談は、その8割が介護保険で扱う領域で、残りの2割が私たちの仕事になります。
具体的には、施設への入所や、成年後見制度の市町村長申立ての申請手続きなどです。
成年後見制度の市町村長申立てでは、4親等以内の親族が申立てをできない方で、ご本人が自分の財産の管理や施設入所の手続きなどができない場合、市町村長の命で行政が代わりに申し立てをするのですが、私たちはその申請手続きをします。

また、支援を受けていない高齢者の相談を受けると、地域包括支援センターにつなげることもあります。困難なケースや虐待があるケースでは、私たちも一緒に動きます。

高齢者は、地域包括支援センターで介護だけでなく普段の生活に関する相談もできます。要支援・要介護認定を受けると、介護保険によるサービスも受けられます。
この地域包括支援センターと介護保険制度のお陰で、高齢者に対する支援は他の分野より充実していると思います。
その点で、2000年に施行された介護保険制度は、高齢者の生活の質を大きく向上させたと感じています。

■対人が苦手でも人に興味があれば、社会福祉士向き

社会福祉士に向いている人は、人に興味がある人だと思います。逆にそれがないと厳しいですね。
人の性格は、人に興味があるタイプと、モノに興味があるタイプに分かれると思うのですが、モノや事象に興味があるタイプの人は、たぶんそもそも社会福祉士を目指さないのではないかと思います。
人に興味はあるけれど、対人が苦手という人もいますが、それはまったく気にしなくていいと思います。実際に私も人に会うときはいつもドキドキしています。
人に興味をもって目指しはじめたのなら、きっとよい社会福祉士になれると思いますよ!


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