学習指導レポート 第2回 合格率100%を達成した、独自の指導方法と学習環境の構築

聖徳大学 心理・福祉学部 社会福祉学科 准教授 石井紀子先生

聖徳大学の社会福祉学科介護福祉コースでは、第30回、31回介護福祉士国家試験(以下、国試)で合格率100%を達成、また、全国模試でも2年連続全国1位という好成績を達成しています。どのようにして、学生の学習意欲を高め、合格に導いているのでしょうか。その指導法について教えていただきました。

 

1年生から国試対策をはじめることで、勉強のコツをつかむ。

―国試の受験対策は何年次から始めていますか?

介護福祉コースでは、1年生から国試対策講座を行っていて、介護福祉コースの教員が科目ごとに担当しています。模試も1年生から前期と後期に1回ずつ受けてもらっています。

各学年、週1回「介護福祉士国家試験対策講座」が組まれている.(写真は4年生対象の国試対策講座)

4年生に対して、国試受験後にアンケートをとっていますが、1年生から国試対策の講義があったので、勉強のコツをつかむことができたという意見が多いです。

3年生からは、希望する学生に対して、受験対策講座のコマ数を増やしています。コマ数を増やすことでグッと成績が伸びて、最終的に介護福祉士と社会福祉士のダブルライセンスを取得できた学生もいます。

「カード学習」で、学生のモチベーションアップ!

―国試対策の取り組みについて具体的に教えてください。

独自の取り組みとして「カード学習」を行っています。名刺サイズのカードの表面に問題が1問、裏面に解説が書いてあります。医学分野では、解剖の図なども入れています。学生たちは、普段からカードを持ち歩いて、ちょっとした空き時間を使って勉強しています。苦手な分野のカードだけピックアップして持ち歩いている学生もいるようです。

学習ガードと確認テスト

このカードは国試対策を担当している教員が作成し、2〜3カ月おきに20~30枚のカードを学生に配っています。カードがたまってきたら、その中から確認テストをして知識の定着を図っています。

 テストは、低学年ではモチベーションを上げることを目的として行います。カード学習をしておけば、国試に出題されるような問題でも、満点がとれるような比較的平易なテストを作成します。そして、徐々にレベルを上げて難しいレベルの問題を出題するようにもっていきます。そうすることで、達成感が得られ、モチベーションが上がるようです。

「カード学習」との連携で効率アップ↑ 「クエスチョン・バンク」の活用方法

―『クエスチョン・バンク介護福祉士国家試験問題解説(以下、『QB』)』を副読本として指定していただいていますが、活用方法を教えてください。

『QB』は、カード学習と並行して、各自読み進めておくように言っています。最低でも3回は通して解くように指導しています。また、国試対策の講義の中では、問題を解いた後の解説に使用しています。

『QB』はイラストや図表が多く掲載されているので、カードに『QB』の参照ページをのせることで、学生が各自併用しながら、より理解を深められるように連携させています。

「クエスチョン・バンク介護福祉士国家試験問題解説2020」

2019年4月25日発行(メディックメディア) 定価3,000円+税

また、『QB』は、国試の出題基準がほぼ全て網羅されているので、教科書のように基本に立ち戻るのにも便利です。勉強のしかたが身についてる学生は、わからないことや詳しく知りたいこと、振り返りたいことがあっても、自分で調べることができますが、それが難しい学生もいます。『QB』だと、選択肢ごとの解説がとても丁寧にされていて、その続きに【基本事項】【補足事項】といったさらに詳しい解説が掲載されているので、自分で調べるのが難しい学生たちも、学習でつまずくことがないのが利点だと考えています。

例えば,尿失禁のページをみると表中に説明とイラストがのっていて、知識とイメージが同時にインプットできます。

『クエスチョン・バンク介護福祉士国家試験問題解説2020』478頁の【基本事項】

こういったことから,以前は学生が自由に問題集を選んでいたのですが、4年前から『QB』を指定テキストとして選ばせていただいています。

「カード学習」と『QB』は、学生同士の共通のツーにもなっています。学生たちは、テストの後に「カードのここにあったよ」「『QB』のここに載ってるよ」と教え合ったりしているんです。

『QB』には、とても助けられています。

「カード学習」の確認テストで実践力を高める。

―カードはどのように作成しているのでしょうか?

 教員の手作りです。内容は国試の過去問を参考にオリジナルの問題を作っています。導入の当初は、日々の授業をしながらカードを作るのが大変でした。今はある程度枚数が揃ったので、学年ごとに模試の結果にあわせて、自由に組み合わせてカードを配るようにしています。

―カード学習の確認テストについて教えて下さい。

「小テスト」として10問を10分の時間で行います。事例問題も含むような「中テスト」では25問を30分ぐらいで行います。国試本番では1問を約1〜2分で解くことになるので、国試を意識した時間設定にしています。こうすることで、例えば「1分迷ったら、諦めて次の問題に行く」といったような、テクニカルな訓練にもなります。

テストの頻度は、1、2年生ではモチベーションが下がらないように国試対策講座3〜4回に1回くらいのペースで行っています。一方、3、4年生は週1回の受験対策講座で毎回行っています。

学生に自信をもたせるための目標設定

―その他,国試への取り組みとして工夫していることがあれば教えてください。

国試の合格基準は、毎年約6割の正解率となっています。やはりそれぐらいのことを理解できていないと、介護現場に出たときに困ってしまいます。ですから、出題の6割を正解できる基本的な知識を大事にしてほしいと考えています。

基本的な知識をしっかり身につけて、そこから関連する事項を覚えることで、模擬試験でも、常に同じような点数がとれるようになります。

学生たちには90点(約7割)を模試の目標にするよう指導しています。国試は満点を目指すような試験ではないので、少し余裕をもって合格できるくらいの点数を目標にしておくことで自信につながります。

昨年と今年の学生は、3年生の模擬試験で全員が90点以上をとれるようになり、全国レベルの模試では平均点で2年連続1位になりました。

それから、授業の際には、学生の生活で身近なことや興味があることに関連づけて教えることを意識しています。法制度を教えるときにも「あなた方が結婚したり出産したらどういう制度を利用することになるのか」、「結婚しても仕事をしてたら…」、「子供が生まれたら夫婦どちらの扶養になるのか」、学生のおじいさんやおばあさんをイメージしてもらって「介護保険を利用するときに何をするのか」とか。学生だと、おじいさんやおばあさんにあたる人が若いから、実際にイメージしやすいのは“ひいおじいさん”や“ひいおばあさん”になってしまいますけど…。

学生たちの結束力を高めることで、より勉強しやすい環境をつくる。

―1年生から国試対策をはじめるとのことですが、下級生と上級生の交流はあるのでしょうか?

介護福祉コースでは、毎年6~7月に異学年交流会を開いています。交流会では、まず自己紹介やアイスブレイクを行って緊張をほぐし、国試の勉強方法について教えあったり、上級生がノートのとり方を下級生に教えたり。1、2年生も「Wライセンスをとりたい!」、「絶対介護福祉士になりたい!」といった目標を発表しあったりしています。こうした機会を学生たちも楽しんでいるようです。

また、こういった機会を設けることで、学生たちの結束力も高まっています普段、授業を受けていると、隣の教室では他の学年の授業が行われていますので、悩みや心配ごとがあると、まず先輩に相談して、それをふまえて教員に相談してくれたりもします。

―どのような介護福祉士を育てたいと考えていますか?

近年、国は、介護人材を増やす方針で動いています。今後は、外国人の方をはじめ、様々な人材が現場に入ってくることが予想されます。もちろん、これはよいことだと捉えています。そのような中で聖徳大学は、4年制大学ということもあり、介護福祉士の中でもリーダーになれる人材を育てたいと考えています。

ですから、普段の授業や国試対策でも、教えたことが確かな知識になり、実践で活用できるようにということを意識して指導しています。2年生からは実習が始まりますが、実習先での経験について振り返る際も、「その事例は授業や国試対策でやったよね」という感じで、普段の勉強と実践を結び付けるように意識しています。国試の問題も実践に基づいて解くと理解しやすいようです。

廊下の掲示板には、3福祉士の国試対策に関する情報(セミナーや書籍案内)のポスターが多数掲示されている。

●編集後記

今回、聖徳大学の石井先生にお話を伺って一番強く感じたことは、“学生一人ひとりが勉強することに対してとても意欲的である”ということでした。

聖徳大学では、1年生から、演習の授業の際には、自分たちで準備や後片付けを行っているのだそうです。こうすることで、実習先で困らないよう、常に主体的に動くことを意識づけているのだとか。

聖徳大学の学生のみなさんが国試全員合格を達成できた背景には、先生方が勉強しやすい環境を整えているということだけではなく、社会に出てからも一人ひとりが活躍できるよう、将来を見据えた教育を行い、学生の自主性を育てていることが鍵になっていると感じました。