第3回 受験のプロに聞く、低学力層への受験指導
国家試験対策講師 飯塚事務所 代表 飯塚慶子 先生
社会福祉士・介護福祉士・精神保健福祉士の国家試験対策に20年以上登壇し、毎年多くの合格者を輩出する。慶応義塾大学文学部卒業、同大学政策・メディア研究科修了。
社会福祉士、ケアマネジャー。ホームページkeikoiizuka.comでは受験情報を配信中。
授業に楽しく参加してもらう
ー養成校の先生方へのアンケートでは”学生さんのモチベーションを上げることに苦心している”という回答が多くみられました。飯塚先生は、学生さんのモチベーションを上げるために何が必要だとお考えでしょうか?
学生さんに変わってもらうのを待つより教える側が変わると、自然と学生さんも変わるのではないかと思っています。学生さんにとって ”受験勉強はできればやりたくないこと” であるのは当然です。手はかかりますが、少しでも合格につながる工夫をすると、学生さんも「あ、変わったな」と実感し、その変化に自分たちもあわせようと動き出します。
具体的には、学生さんを飽きさせないこと、達成感をもたせること、本当は遊びに行きたかったけど、がんばって授業に出たらその場で1点取れる、というお得感をもたせることがモチベーションを上げるために大切だと思います。
ー具体的にどんな工夫がありますか?
淡々と話すと飽きるので、なるべく動きをつけて講義をするようにしています。例えば、学習用のマグネットを用意してホワイトボードに貼りながら解説すると、学生さんもその動きを目で追うようになり、集中力が高まります。
↑ ビタミンの説明
また、オンラインであっても授業は双方向で行います。学生さんに問題を解いてもらうだけでなく、重要なポイントを自分の言葉で説明してもらったり、学生さん同士で問題を出し合ってもらったりすることで、ゲーム感覚で自分の役割をこなしながら授業に参加することができます。
また、授業で覚えたことは、すぐに復習するようにします。口頭でクイズを出すという形でもよいでしょう。
このように、授業に積極的に参加することで達成感を感じることができるのです。
ー授業では、どのようにしてお得感を感じてもらうのでしょう?
多くの学生さんはコツコツ勉強するということが苦手です。ですから、「授業に参加してその時間は集中して勉強すれば、これだけの内容を1コマで覚えられる、あとは自由時間になる」ということを伝えています。
例えば、最終学年の夏休みの前には、「最後の夏だから、思いっきり思い出を作りましょう!」、「この講義だと●●時間で終わるから、それだけがんばって、あとは夏をエンジョイしましょう!」と声をかけるようにしています。
実際の授業では、たくさんのことを頭に詰め込むのではなく、得点に必要な情報に絞って覚えてもらったり、授業でしか習得できないゴロあわせや覚え方のコツを講義内容に散りばめたりすることでお得感を感じてもらっています。
学生さんには、危機感をもたせたり、長時間の勉強を勧めるのではなく、合格への近道を示す方が振り向いてくれます。「それならやってみようかな」と心が動くようです。
クラスの全体を底上げする効率的な指導
ー先生方からは、基礎学力が十分でない学生さんへの対応についての悩みが多く寄せられました。
受験勉強がはじめての学生さんは座学に慣れておらず、”講義内容をどうやって自分の点にするか”の方法がわからないため、通常は講義を受けただけで終わってしまいます。こういう学生さんには手とり足とり復習方法を伝え、練習してもらうことが大切です
例えば「教科書のキーワードに下線を引いて読む」という課題を出しても、どこが重要なのかわからないという学生さんがほとんどです。そこで、使用する教材を書画カメラで映して、講師が説明しながらキーワードに下線を引き、それをマネしてもらうことからはじめてみるとよいでしょう。
講義の復習を促すときにも「復習しておいてね」という漠然とした声かけはしないようにしています。「復習ってどういうことで、どのページから始めたらよいかわからない」という学生さんが多いからです。こういった学生さんには、「家に帰ったら、最初に開くページ」を授業中に決めてもらいます。講師の説明を聞いて、「ここ難しかったな、このまま試験に出るとやばいな」と思ったページの端を折ってもらえれば目印になり、どこを読み直したらよいかわかります。
ー学生さんには、どのくらい課題を出せばよいでしょう?
最初は週末に30分ずつ(2日で1時間)勉強すれば十分だと考えます。学生さんはもともと勉強時間0分からのスタートで、アルバイトや実習・卒業論文・就職活動・サークル活動など、受験勉強以外にもやることがたくさんあります。最初から「それは無理」とあきらめたくなるような勉強時間を提案しても、心に届きません。まずは、勉強した時間を記録してもらうことからスタートです。ダイエットでも「一日●キロカロリー」と約束するとしんどくて続かないですが、食べたものを記録することでしたら、手軽ですよね。
ー学力の問題のなかでも読解力が低いことを問題視される先生が複数いらっしゃいました。
近年の国家試験は問題文が短くなったため、高い読解力が要求される試験ではなくなってきました。この出題傾向に合わせてキーワードを把握し、自分の言葉で説明できることを大切にします。
国試で出題される長文の事例問題でも、文章から問題を解くのに必要な情報(人物の年齢や障害・疾患・主訴・同居者など)を把握できるか、が問われます。対象者の情報を端的に理解する姿勢は、実務でも同じように求められます。
長いキーワードを覚えるのが大変という学生さんも多いです。その場合は単語の一部だけを覚えるように提案しています。例えば「社会保険診療報酬支払基金」だったら、最後の4文字「支払基金」に注目すると頭に入りやすくなります。国家試験は記述式ではないので、まずは「選べる」ことをゴールに設定します。すべてを正しく漢字で書けることを逐一気にしていると学生さんにとっては大きなストレスですし、なかなか先に進みません。ただし、「実務で必要になった場合は、すべてを漢字で書けるようになりましょう」と付け加えています。
クラスのさまざまな学力層に対応する
ークラス内で学力差が大きく、個別対応が必要という学校も多いようです。どのような指導が効果的でしょうか?
先生は模試や日頃のテストで学生さんごとの苦手科目をしっかり把握し、それに合わせて授業で対応する必要があります。
成績が良く常に合格圏にいるような学生さんは特別なサポートをしなくても合格できるので、先生は救済策があれば合格できる合格の当落線上にいる学生さんに注力するといいでしょう。
成績中位の学生さんに対しては、苦手科目の問題を解いてもらったり、復習テストの問題を作成してもらったりして、苦手科目の授業で本人の出番を増やすようにしています。担当した問題は必ず解けるようになり、授業で重要な役割を担い先生をサポートした経験は自信になります。
成績下位の学生さんに対しては、授業だけではなく個別指導が必要です。こういった学生さんは勉強法に迷いをお持ちのことが多いので、隣について一緒にキーワードに下線を引くことから始めます。勉強法を習得できれば、必ず成績は上がり、目の前の景色が変わっていきます。
また、暗記で得点できる問題から取り組むようにしてもらうことも心がけています。暗記はゴロ合わせがあれば正解できる”得点アップの近道”です。ゴロあわせをプラスするだけで、短時間で1点取れるようになりますので、学生さんも「やればできんだ」という達成感が持てますし、「明日ももう少しがんばってみよう」という気持ちにつながるようです。
ーほかに授業での指導で、何か気をつけることはありますか?
私の場合、授業で学生さんを指名して答えさせる際には、最初になぜ指名制を導入するのか説明し、”間違っても気にしなくてよい(間違えた場合は、すかさずヒントを出します)”、”パスは2回までOK”としています。逃げ場を設定することで、指名制があるから授業に参加しないという事態に陥らないように留意しています。指名制が軌道に乗りますと「当たったところは、試験で間違えない」、「いつ当てられるかわからないので、授業に集中できる」と学生さんの満足度があがります。
最も重視するのは、「知識の定着率」
ー受験勉強では、過去問題を解くことが重要とされていますが、気をつけることはありますか?
”過去問題は3年分を3回繰り返して解く”という指導が一般的で、学生さんは過去問題を3回正解して満足しがちですが、国家試験では「過去問題の正解力」が求められているわけではありません。
過去問題を解く前に基礎知識を定着させる(キーワードを理解できている)ことが重要です。正解して満足するのではなく、出題の角度が変わっても正解できる力を身につけることが必要なのです。
知識の定着率は学習の段階で上がっていきます。私の場合、学習の段階と知識の定着率の関係を把握するために、以下の数値を目安にしています。
▼知識の定着率の目安
解説を目で読むだけ:10%
キーワードを見つけて、下線を引きながら読む:30%
キーワードを思い出して問題を解く:50%
講師が問題の落とし穴を教える:70%
講師がゴロあわせを紹介し、一緒に暗唱する:80%
キーワードの意味を再度、暗唱する:100%
先生は知識の定着率を上げるための働きかけを行うことが大切です。
ー最近は、動画を活用して勉強するという学生さんも増えているようです。動画で勉強することについては、どのようにお考えでしょうか?
私が解説しているCDやDVDは、授業回数が少ない時期や長期休暇で学生さんがさぼりそうな時期に、特に勉強法を確立できていない学生さんに勧めています。疲れていても、眠くても、講師が家庭教師役となり自学をひっぱりますので、得点効率が高く見込めます。
問題の「落とし穴」は講師から指摘されないと気づきませんので、CDやDVDを活用することでも、試験当日に「問題のどこに気を付けるべきか」アンテナをはれるようになります。
CD、DVD教材は、勉強法の迷いを払拭します。直前期にはミラクル合格を輩出するほど、学生さんはフル活用しているようです。
※メディックメディアでもYoutubeチャンネル「福ぞうくん」を開設しています。ぜひご活用ください。
模試は、結果に立ち止まらず、解き直しに注力する
ー模試はどのように活用されていますか?
模試は受けた時点での学力UPの効果は3割程度です。解き直しに時間がかかるので、年間1~2回受ければ十分だと考えています。
模試の成績は通過点ですから、試験当日の点数につなげるものと捉えます。模試をたくさん受けていても、そのたびに「×」ばかりの悪い成績が返ってきて、落ち込み、身動きが取れなくなると、模試を受けたことで逆にモチベーションが下がってしまいます。
模試を受けるのであれば、「この問題は正解できなきゃね」といったように、まず、どの問題から着手するのか優先順位を示し、一緒に次の一歩を踏み出さなければなりません。模試は受けた後が肝心です。
また、模試の解説書は難しくて、飽きるので、きっかけがない限り、自分で開いて読む学生さんは希少です。先生が通常の講義と同様に解説書を使い、どこがキーワードなのかに焦点を当て、模試受験の時点で正解しなければならない問題を解説します。その後、解説書に下線を引く課題を出し、点検して、コメントとともに返却しています。成績表をもとに個別に面談もしますが、結果は不問です。結果にアレコレ言われれば、これからがんばろうという気持ちにはなりません。
『クエスチョン・バンク(QB)』や『レビューブック(RB)』に情報を集約する
ー受験対策講義では、『QB』や『RB』をどのように活用していただいているのでしょうか?
『QB』や『RB』には図表やイラストが豊富に掲載されていて、重要なポイントが簡潔にまとめられています。ですから『QB』や『RB』をノート代わりにして、講義で配った資料やメモした付箋を貼り付けたりと、本に情報を集約するように紹介しています。こうすることで、試験会場に持参する1冊に仕上がります。
それから、よく学生さんから「参考書のどこを覚えたらいいのかわからない」という相談を受けるのですが、『QB』や『RB』は、重要なキーワードが赤字になっていますし、過去に出題があった箇所が『RB社福』では青字になっていたり、『QB介護』では下線が引かれていたりとひと目でわかるようになっています。こういったところを優先的に覚えればよいと紹介しています。
『QB』『RB』は読みやすく学生さんに人気なので、今後も授業で活用していこうと思っています。
●編集後記
飯塚先生に、どのようにして受験指導のノウハウを構築したのかについてお聞きしたところ、「学生さんをヒントにしている」とのこと。常に学生さんの反応をみたり、コミュニケーションを密接にとりながら指導していくことで、教え方のノウハウが出来上がっていったそうです。”常に学生さんの立場に立ち、気持ちに寄り添う”ことが効果的な指導につながるのだと感じました。 |