福ぞうくんがいく!社会福祉士の活躍
#01 世田谷区 里親支援センター

こんにちは、福ぞうです。
医療、地域、行政、高齢者、障がい、児童、司法…などなど、様々な分野で活躍する社会福祉士たち。
社会福祉士は、利用者さんそれぞれの背景や課題があるなかで、一人ひとりの「その人らしく生きる(wellbeing)」道を一緒に探していきます。
活躍の場がどんどん広がっている社会福祉士に、福ぞうがお話を聞きました。

  • 児童養護施設「社会福祉法人 東京育成園」とは
  • 里親制度の認知拡大をめざす社会福祉士
  1. 当初は前向きではなかった「福祉」という選択肢
  2. 大学生活で変わった福祉へのイメージ
  3. 入職して抱いた疑問
  • どんなお仕事?
  1. とにかく繋がって、可能性を広げていく
  2. 里親子が「あたりまえ」の世の中に
  3. イメージを変えるための工夫とは
  • 福祉に関心のあるあなたへ
  1. 福祉をやりたい人じゃなかったからこそ見える世界
  2. 社会福祉は人を通して社会と向き合う仕事

児童養護施設「社会福祉法人 東京育成園」とは

1896年の東北三陸地方大津波による災害孤児の救済からはじまり、長い歴史をもつ児童養護施設「社会福祉法人 東京育成園」。基本理念に子ども中心主義を掲げており、事業が子どもの最善の利益であることに努め、子どもとその養育者を含めた幸せが実現できるよう、職員一人ひとりが高い専門性をもつことを大切にしています。

keyword
児童養護施設(RB2026 p.617)
保護者のない児童(乳児を除く。ただし、特に必要のある場合には乳児を含む。)、虐待されている児童、その他環境上養護を要する児童を入所させて養護し、退所した者に対する相談その他の自立のための援助を行う施設(『児童福祉法 第41条』)

笑顔で迎えてくれた三村さん(左)と岩田さん(右)

三村さんの活躍についての記事はコチラ!

里親制度の認知拡大をめざす社会福祉士


社会福祉法人 東京育成園
岩田 祐一郎さん

里親支援センターともがき センター長。社会福祉士、精神保健福祉士。神奈川県立保健福祉大学卒。児童養護施設東京育成園にてケアワーカー、里親支援専門相談員を務める。2020年から、同法人のフォスタリング機関として里親制度の周知/里親のなり手の開拓や、里親のための研修、里親子の相談業務を行う。法改正を受け、2025年からフォスタリング機関が里親支援センターへと変更となり、現職。


1)当初は前向きではなかった「福祉」という選択肢

もともと福祉の大学を選んだのは消極的な理由だったと話す岩田さん。福祉職を志す人が集まる福祉系大学に入学した岩田さんは、最初はモチベーションが低かったと学生時代を振り返ります。

受験がうまくいかず、最終的に決まったのが福祉系の大学だったんです。公務員だった母親が福祉の仕事をしていた時期の話を当時よく聞いていて、その時に精神保健福祉士という職業を知りました。これなら自分が関心のある心理学とも近いのではと思い、進学を決めました。
そんな理由だったので、福祉へのモチベーションは周りの学生に比べて高くないし、通っていた高校の環境と全然違っていて、最初は居心地の悪さを感じていました。でも専門的な教科を学ぶなかで、人の内面について考えられる機会が増え、大学が楽しいと感じるようになったんです。それは自分の中の漠然とした心理学のイメージと福祉の学びが近かったから。大学では、専門職としての対人援助技術や制度・社会について学んだので、福祉は社会を変えたり世の中に貢献できる仕事だと授業を重ねるなかで気づきました。

2)大学生活で変わった福祉へのイメージ

なかでも実習の経験は大きかった、と続けます。アルコール依存症の専門病院での実習で、ピアサポート(当事者活動)の団体に参加した時の当事者の言葉が、改めて「福祉とは何か」向き合うきっかけになったそうです。

アルコール依存症が寛解状態となった当事者の方が、「私たちは幸せを感じちゃいけない。アルコール依存っていうのは一日一日飲まないことを繰り返さないとスリップ(再発)しちゃう。私たちは幸せを感じると飲みたくなってしまう。」とおっしゃっていました。

その方にも幸せに感じる瞬間とか生きていてよかったという瞬間があるはずだし、あってほしい。なのに幸せになってはいけないと言わなければならない世の中に、自分のなかで葛藤や憤りが生まれました。個人だけではなく、皆が幸せになってほしいと広く捉えられるようになったのは、実習のおかげです。


どんな専門職になりたいか、どんな世の中になってほしいかを考えたり、ゼミの友人と話すことが好きだったという


3)入職して抱いた疑問
一時保護所でのアルバイト(夜間指導員)経験がきっかけとなり、長期的な期間での子どもの成長や変化を見てみたいと感じ、東京育成園に入職した岩田さん。入職後、ケアワーカーとしての経験を積むなかで、とある疑問を抱くようになります。

新しい子どもたちが次々に入り、家庭で生活できない苦しい状況の子がずっといる状態や、そこに直接手を出せない 現場の閉鎖性に疑問を感じるようになります。そこで、社会に対する働きかけをして制度や政策・環境を変える「ソーシャルアクション」の研修に参加したんです。

先進的にソーシャルアクションをしている人たちは、福祉以外にもさまざま手法を使っていることがわかりました。やはりこの状況を打破するためには、世の中に働きかけないといけないと考えるようになったんです。

どんなお仕事?

岩田さんがセンター長を勤める「里親支援センター ともがき」では、里親を希望する方の登録〜里子を預かり養育する全てのプロセスの支援ほか、里親制度の普及啓発等も行います(フォスタリング業務)。
世田谷区のフォスタリング業務の委託事業として行っていた「フォスターホームサポートセンター ともがき」が、令和6年の『児童福祉法』改正を経て、令和7年7月から第二種社会福祉事業である里親支援センターに生まれ変わりました。

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里親制度(RB2026 p.628)
家庭での養育に欠ける児童等に、その人格の完全かつ調和のとれた発達のための温かい愛情と正しい理解をもった家庭を与えることにより、愛着関係の形成など児童の健全な育成を図るものである(厚生労働省通知「里親制度の運営について」別紙「里親制度運営要綱」)

1)とにかく繋がって、可能性を広げていく

児童養護施設内でのフォスタリング事業の立ち上げから、現在のセンター創設に至るまで先頭に立ってチームを率いてきた岩田さんは当時をこう振り返ります。

里親支援専門相談員の制度ができ、翌年度から施設でも配置予定という話になったとき、迷わず手を挙げました。入職して3年目でした。それから里親の仕事に関わらせていただいて、現在14年目になります。(インタビュー当時)

国として里親支援の制度が生まれ、児童養護施設に専門職を配置するというタイミングでやらせていただいていて、新たに切り開かなきゃいけない仕事をずっとしてきています

大事にしているのはとにかく人や資源と繋がること。繋がった方の力で、何ができるかを柔軟に考えること。自分たちだけですべてを成し遂げるのではなく、福祉専門職もそうでない方々にも、様々な力をもつ周囲の方に積極的に助けてもらうことを大切にしています。

ケアワーカーや家庭支援専門員(FSW)業務等、今までの多様な経験すべてが、今の業務に活きていると話す


2)里親子が「あたりまえ」の世の中に

近年では、こども達が家庭と同じような環境で生活することができる里親やファミリーホームにおける養育を推進するために、里親制度の周知啓発に力を入れています。しかし国が目指す方向と世間にギャップがある、と岩田さんは指摘します。

里親里子は世の中からするとまだまだマイノリティです。

例えば「養育者と顔が似てないよね」や、ポジティブな言葉のように「里子を受け入れるなんて立派な人だね」と投げかけられることもあります。こういう世間との摩擦に、居づらさを感じている里親子さんは少なくありません。

まずは里親子というのが世の中で当たり前になっていくことが大事なんじゃないかと考えています。様々な家庭の形態があるように、インクルーシブな世の中になっていけば里親になりやすい。里子を受け入れても何も言われず、自然にふるまえる地域であれば、結果的に里親が増える。ここは今後の施策のなかでも中心だなと思っています。


3)イメージを変えるための工夫とは

里親支援センター ともがきでは、世田谷の里親子フレンドリーシティを目指し、制度啓発として様々な取り組みを行っています。WEBサイトはデザインがとても素敵で親しみやすい印象をもちます。各家庭の食卓を通して里親子の日常を綴る連載企画は、制度をよく知らなくとも里親子のありのままの雰囲気が伝わってきます。
他にも子どもと生活した経験がある里親さんとリラックスした雰囲気で話せる里親カフェの開催や、東急世田谷線で制度啓発のメッセージを載せたラッピング電車が走るなど、福祉に馴染みのない層でも情報が受け取りやすいよう工夫が施されています。
世田谷の里親相談室 SETA-OYA

里親子のイメージを変えていきたいということもあって、世田谷らしさ、少しおしゃれな感じにしようとしています。

マーケティングやデザイナーの方等、他業種の方と関わるようになって、様々な知識を知っていける面白さがあるんです。こうやって社会とどんどん繋がることで、学びへの意欲が高まったり、様々なアプローチの可能性を探れるので、やりがいがあります。


制度が普及していくことで、ゆくゆくは施設に来る子どもたちを減らしたいという

福祉に関心のあるあなたへ

1)福祉をやりたい人じゃなかったからこそ見える世界

目の前の対象者だけではなく社会を見つめ、俯瞰して物事を考えている岩田さんに、なぜそういう考えができるか尋ねると、「自分は福祉に携わることがゴールではなかったから」と答えてくれました。

福祉の仕事といえば、目の前の人を助けることを想像する人が多いと思いますし、目の前のひとりを大切にできるスキルはとても重要です。

ただ自分の場合は福祉に携わることがゴールではなかったので、モチベーションは人だけではなく、「社会を変えたい」という思いでした。要支援者の苦しい状況や、福祉現場の職員が抱える葛藤や不満に対し、自分のためにも周りのためにも、福祉は価値のある仕事だと社会に働きかけていきたいと考えています。


2)社会福祉は人を通して社会と向き合う仕事

精神保健福祉士と社会福祉士のダブルライセンスをもつ岩田さんは、これらの資格は専門職としての意識や誇りに繋がっているといいます。資格必須の業務でなくても、学んだことをどう活かすかという発想次第で、経験不足だと感じる場面でも乗り越えることができたそうです。
そんな社会福祉のおもしろさについて、岩田さんはこう語ります。

社会福祉のお仕事とは、クライエントや地域の方と向き合い、一人ひとりの課題解決に尽力するのはもちろんですが、「人を通して社会と向き合う仕事である」とも私は思っています。

なんだかうまくいかない、自分を大切だと思えないなど、生きづらさを感じる人たちにとって、世の中をウェルビーイングな環境にしていくことを目指すと、目の前のひとりだけでなく、もっと多くの一人ひとりに対しアプローチしていけることが魅力だと思います。そしてそれは翻って、自分たちや身の回りの人たちが過ごしやすい世の中を作ることになります。

そのため、「まずは自分のためにちょっと世の中が良くなったらいいな」と、福祉専門職の入り口に立っていただけると嬉しく思います。

岩田さん、貴重なお話をありがとうございました!個人を通して社会と向き合える仕事、それが社会福祉士。岩田さんのお話から、社会福祉士の大きな可能性を感じることができました。社会福祉士って、カッコいいぞう!


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