福ぞうくんがいく!社会福祉士の活躍
#07 母子生活支援施設

こんにちは、福ぞうです。
医療、地域、行政、高齢者、障がい、児童、司法…などなど、様々な分野で活躍する社会福祉士たち。
社会福祉士は、利用者さんそれぞれの背景や課題があるなかで、一人ひとりの「その人らしく生きる(wellbeing)」道を一緒に探していきます。
活躍の場がどんどん広がっている社会福祉士に、福ぞうがお話を聞きました。

  1. 「子どもが好き」から「助けたい」への変化
  2. 実習を通して知った夢と現実とのギャップ
  1. 少年指導員として積み上げたキャリア
  2. ライフステージが変わっても、大切なこの場所で働き続けたい
  3. 家族の新たなスタートを支える
  1. 「社会福祉士」としての責任感
  2. 「支援する、される」関係ではなく、「互いに支え合う」関係

母子の新たなスタートを支える社会福祉士

母子生活支援施設
海老澤 友香さん

新卒で現在の母子生活支援施設に少年指導員として入職。現在はフルタイムで働きながら子育てと両立しつつ、自立支援担当職員・主任として、退所者のアフターケアや若手職員の育成等に従事している。


1)「子どもが好き」から「助けたい」への変化

海老澤さんが児童福祉の道を志す原点となったのは、高校時代に出会ったノンフィクション小説『”It”と呼ばれた子』でした。思わず目を背けたくなるような児童虐待の現実を描いた内容に強い衝撃を受け、「子どもが可愛い」という漠然とした児童関係の仕事への関心が、「子どもを助けたい」という強い意志に変わったといいます。

もともと子どもが好きで、関わるのも得意で。中学時代の職場体験で親身な保育士の方々と出会ったのがきっかけで、高校に入るまでは保育士を目指していました。
そんななかでこの本と出会い、ぼんやりと抱いていた子どもへの関心が大きく変化するきっかけになったんです。
「不適切な養育環境によって生じた特性のせいで、理解のない周囲から二次被害を受ける子どもたち。その苦しみに寄り添い、分かち合える人になりたい」という想いが強くなり、将来の進路が明確になりました。

進路相談の際、トラウマを抱えた子どものケアには心理学の視点が役立つと助言を受け、海老澤さんは臨床心理学を専攻できる大学の心理学科へ進学しました。
しかし、学びを掘り下げていくなかで強く実感したのは、自分が本当に学びたいテーマは「福祉」であるということでした。福祉の観点から多角的に知見を深めたい、そして現場の状況を自身の目で確かめたいという想いが募り、社会福祉士コースとの同時履修を決意します。

その後は特別支援学校の子どもたちと関わるサークルに入ったり、一時保護所のボランティアをしたり、保育士の資格を取得したりと様々なことに挑戦。
授業やアルバイトとの両立はとても大変でしたが、同時にいい経験だったと海老澤さんは振り返ります。

大学では、特別支援学校の小・中・高に通う子どもたちと関わるサークルに参加しました。子どもたちが夢中になれる企画を考えたり、お母様方がほっと心を休められる時間を設けたりと、とてもやりがいのある活動でした。
サークルには教職を目指すメンバーが多く、多忙ななかでも、熱心に講義を受けたり資格取得に励んだりと、真面目で努力家な仲間に恵まれていたと感じます。
学年が進むにつれて卒業論文や就職活動、国家試験に向けた勉強などが重なり、目まぐるしい日々が続きました。そんなときは友人たちの姿を見て勇気をもらい、「私も負けずに頑張ろう」と気持ちを奮い立たせることができたんです。


今も仕事や育児で大変なときは、学生時代の経験を振り返って勇気をもらうことがあるという


2)実習を通して知った夢と現実とのギャップ

サークルやボランティアでの活動を通して福祉の現場を実際に見ていくなかで、「児童相談所で働きたい」という夢ができた海老澤さん。
念願だった児童相談所での実習が実現したものの、そこで直面したのは、自身が思い描く理想と、行政ができる範囲の支援とのギャップでした。この経験が、自らの将来や進路について考え直す大きな転機になったといいます。

実習先の児童相談所は、本当に多忙なエリアにありました。
児童福祉司の方々はそれぞれ途方もない数のケースを担当しているなか、新規の虐待通告も毎日きます。通告を受けた後はすみやかに子どもの安全確認を行う必要もあり、現場の負担の大きさを実感しました。
すべての家庭に寄り添いたくても、ここではかけられる時間や人の数に限界があることを痛感したんです。

自分が本当にやりたい支援は「一人ひとりにじっくりと寄り添い、課題の解決まで伴走すること」だと気づいた海老澤さんは、家族の再構築に特化した母子生活支援施設への就職を決めました。

どんなお仕事?

母子生活支援施設は、18歳未満の子どもを養育している母子家庭、または何らかの事情で離婚の届出ができないなど、母子家庭に準じる家庭の女性が、子どもと一緒に利用できる施設です。
DV被害や経済的困窮など、様々な事情で入所された母子に対して、心身と生活を安定するための相談・援助を進めながら、自立を支援します。(全国母子生活支援施設協議会HPより一部引用)

keyword
母子生活支援施設(RB2027 p.611)
配偶者のない女子又はこれに準ずる事情にある女子及びその者の監護すべき児童を入所させて、これらの者を保護するとともに、これらの者の自立の促進のためにその生活を支援し、あわせて退所した者について相談その他の援助を行う施設(『児童福祉法』第38条)。

母子生活支援施設は、唯一、親⼦を分離せずに子と母を一体的に支援できる施設なんだ。近年はその専門性を活かして、「産前・産後支援」「アフターケアを含む地域支援」「親子関係構築支援」を3本柱として、地域の子育て家庭を支援する事業を展開しているよ。母子生活支援施設についての詳しい情報は、「全国母子生活支援施設協議会HP」を確認してね。

1)少年指導員として積み上げたキャリア

母子生活支援施設には、入所した母子に対して多角的な支援を提供するために、様々な専門職が在籍しています。

▼母子生活支援施設で働く専門職(一部)

母子支援員 母子の生活全般の支援や課題解決のための支援、自立へ向けた支援を行います
少年指導員 子どもたちへの生活支援や学習支援、日々の遊び、進路相談などこどもの成長、自立へ向けた支援を行います
自立支援担当職員 母子への自立へ向けた支援や退所後のアフターケアを行います

(全国母子生活支援施設協議会HPより一部引用)

現在も勤めている施設に、少年指導員として入職した海老澤さん。
日本全国から入所を受け入れているこの施設では、入所者の9割以上がDVから逃れてきた母子とのこと。加害者の追跡から逃れるため、遠方から緊急的に避難してくるケースも少なくありません。

私たち職員は、母子の生活の安全確保を徹底しつつ、自立(退所)という目標に向け、各専門職で連携しながら支援を行っています。
私は入職から産休に入るまで、少年指導員として小学生から高校生までの子どもたちを担当していました。虐待や家族の精神疾患などの影響により、心が不安定になっている子どもも少なくありません。そのため、個別に関わったり、お母さんも交えた対話を重ねたりしながら、時間をかけて信頼関係を築いていきます。
少年指導員として積み上げたキャリアや経験は、職種が変わった今でも生き続けています。


利用者はもちろん、職員との対話も大切にしているという

様々な背景や心の傷を抱えた子どもたちと出会ってきた海老澤さんですが、なかでも激しい非行を繰り返していたある少女との関わりは忘れられないエピソードだと振り返ります。

頻繁に物を壊したり盗んだりしてしまう、非行が激しい女の子がいました。トラブルを起こすたび彼女と向き合い続けましたが、行動はなかなか改善されず…。彼女の態度に苦しくなってしまうこともありましたが、それでも「怒る」という対応はしたくないと考えていたんです。
そこで少年鑑別所の方にコンサルテーションしていただき、非行児童の対応について専門的なアドバイスを伺いながら彼女にアプローチすることにしました。プロの方の意見は知識や経験に基づいているので、次第に支援の一つひとつに根拠をもって対応できるようになり、自分の自信にも繋がりました。
多くの人の協力の甲斐あって、徐々に彼女の非行は治まりました。その後、様々な事情が重なり退所してしまいましたが、現在も施設との繋がりは途切れることなく、継続的にサポートを行っています。今では彼女の心も成長し、私やほかの職員に感謝を伝えてくれるようになりました。
施設での経験や様々な人との関わりが、子どもたちの成長に良い影響を与えられていることを感じると、大きなやりがいを感じますね。
keyword
コンサルテーション(RB2027 p.536)
コンサルテーションとは、専門的知識や技術の向上のため、コンサルティ(助言を必要とする専門職)がコンサルタント(コンサルティとは異なる専門性をもつ者)へ教育、相談、助言などを求めることである。

2)ライフステージが変わっても、大切なこの場所で働き続けたい

少年指導員は、夜勤や宿直が必須の働き方です。産休に入った海老澤さんは、以前と同じように働きながら育児と両立するのは難しいと感じ、転職を検討していました。しかし本心としては、できることなら今の職場で働き続けたいと考えていたといいます。
そんな模索の日々のなかで、転機が訪れます。社会福祉士の資格をもつ海老澤さんに対して、施設側から「自立支援担当職員」としての復帰を提案されたのです。

一時は転職も考えましたが、やっぱり私はこの施設の雰囲気や仕事が大好きで。同じ場所で働き続けたい気持ちがとても強かったので、「非常勤でもいいから働きたい」と希望を伝えていました。
そんなとき、施設退所者の自立に向けた支援を強化する国の動きに伴い、当施設でも自立支援担当職員を配置することになりました。資格要件の1つである社会福祉士に私がマッチしていたため、心機一転、新たな職種で復帰することができたんです。


海老澤さんの表情からは、専門職としての誇りと、クライエントや職場に対する深い愛情がうかがえる


3)家族の新たなスタートを支える

現在は、母子の自立に向けた支援や退所後のアフターケアを行う自立支援担当職員として活躍する海老澤さん。退所=ゴールではなく、退所後に生じうるリスクを想定しながら、見通しをもって支援を積み重ねることが重要だと語ります。

退所後に連絡が途絶え、後になって「お母さんの精神状態が不安定になり、生活が行き詰まっていた」と判明するケースもあります。
そうした事態を未然に防ぎ、困ったときにいつでも頼れる場所の1つとして機能できるよう、入所中から信頼関係を築くことを心がけています。リスクが高いと思われる母子に対しては、退所後もこちらから定期的に連絡を入れるなど、関係性が途切れないよう努めています。


母子にとって、入所中は伴走者、退所後は給水地点のような存在でいたいという

福祉に関心のあるあなたへ

1)「社会福祉士」としての責任感

海老澤さんは、自立支援担当職員としての役割に加え、主任としてチームを取りまとめる重責も担っています。ときに利用者の攻撃的な態度に傷ついた職員が、支援の方向性を見失ってしまうことも。主任である海老澤さんは、クライエントの「裏側の気持ち」を捉えることを心がけているようです。

利用者のなかには、ご自身の気持ちを適切に表現することが難しい方もいらっしゃいます。特に若手職員は経験も浅いため、攻撃的な発言や態度といった表面的な部分にとらわれやすく、その奥にある本来のニーズを見失ってしまうことがあります。
生育歴から甘えられない方、あらゆる感情が怒りに昇華されてしまう方、ご自身が自覚していない疾患がある方…。利用者の背景をそれぞれ丁寧に掘り下げていくと、どんな行動にも理由があることがわかります。
だからこそ、「なぜその行動に至ったのか」という根本的な理由や原因を深く探り、表側にとらわれないようアセスメントをすることが大切です。
チーム全体で一丸となって連携しながら支援を進めるために、職員がこの大切な視点を見失わないようサポートしていくことが、主任としての重要な役割だと考えています。

多角的な視点をもって支援を行う海老澤さんですが、今でも難しいケースや後輩を育成するとき等、不安になる場面はあるといいます。そんなとき自分を奮い立たせるのは、福祉のプロである「社会福祉士」としての責任感だと語ります。

最近ではメンタルケアが必要なお母さんや特定妊婦、ヤングケアラーのお子さんなど、現代社会の多様な課題を背景にもつ利用者の方が増えてきています。
前例がないケースは特に対応が難しいため、他機関と連携を図りながら情報交換を行い、適切な福祉サービスの導入を模索しながら解決への道筋を探っています。
このように年次を重ねても困難な状況は絶えませんが、そんなときは「社会福祉士である」ことが自らを律する戒めとなり、前を向く力となっています。よりよい支援に繋げるためにも、私自身勉強の日々です。


学ぶ姿勢を忘れることなく、クライエントを包みこんであげられる人が、現場で活躍してほしいという


2)「支援する、される」関係ではなく、「互いに支え合う」関係

学生時代から現在に至るまで、「こうありたい」と掲げた目標を、一つひとつ着実に達成しながら、キャリアと夢を実現させてきた海老澤さん。福祉の現場で活躍する今も、多くの人々に支えられていることを実感しながら、日々の支援に取り組んでいると語ります。

どんなときも仲間たちと支え合いながら、目の前のクライエントに向き合い続けることで、良い支援に繋がったと実感できたとき、大きなやりがいを感じます。それは自分の自信に繋がるだけでなく、クライエントの存在に自分こそが支えられていると感謝する瞬間でもあります。
皆さんも是非、心と心が通じ合う経験に立ち会ってみてください。

 

海老澤さん、貴重なお話をありがとうございました!穏やかな笑顔でお話しされる姿からは、施設への深い愛情だけでなく、社会福祉士としての誇りをもってお仕事と向き合う情熱が伝わってきたぞう。これからも利用者の方の人生を支える社会福祉士として、活躍し続けてくださいね。

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